樺戸集治監で見る永倉の後ろ姿|ゴールデンカムイで寄り道さんぽ#28


前回から急に場所が41㎞とびますが。

場所は樺戸監獄。正しくは旧樺戸集治監本庁舎。北海道の月形町というところにある。

看守「先生 また来年もよろしくお願いします」

永倉「では よいお年を」

ゴールデンカムイ第85話 『恋路いくとせ』より

旧樺戸集治監本庁舎は、開拓の村内にある建物と違いずっとこの地にある建物である。作中もそのまま樺戸集治監として登場する。

網走監獄の方が有名であるがこちらの方が10年近く早くはじまっており、周囲はなにもなく、地域的にこちらの方が積雪量が多いので囚人たちとしてはまさに地獄の地であったかもしれない(特に冬期の外役は)。

内部も有料で見学することができるが撮影不可だったので作中に出てきたあれこれをあげることができない。しかし大人300円とは思えない大がかりな展示内容となっており、展示をみているうちにいつのまにか地下道を通って別館に渡っている感じとかすごかった(展示内容と関係ない感想)。

いや、展示内容も充実しており、門倉が網走監獄で使った囚人一斉開放装置や典獄室など作中に関係あるものはもちろん、それ以外でも一つ一つ惹き込まれてしまう内容。北海道にこうした監獄を作ったのは開拓の人材を補うため+万が一逃げ出しても北海道内にとどまることになるので本州に被害がないから、という身も蓋もない本音も展示内容から見ることが出来る。

歴史はともかくゴールデンカムイファンという目線でも、永倉と犬堂典獄が話した場所などがこのあたりだ、などと光景が目に浮かぶので楽しい。

右奥が入口、正面のここが典獄室。内部は永倉と犬童が話す様子が目に浮かぶ室内展示

…が、周辺が少し寂しい場所にあるのと、このあたりは現在鉄道が廃線となり、旅行者には交通機関が乏しいので聖地巡礼には少しハードルが高いのがネック。廃線前も一日一往復という路線だったので日帰りがやや無理な場所もあった。

ちょうどこの壁の向こう側が永倉と犬童が会話していた場所。
永倉の後ろ姿を見ているような気持ちになる

永倉「犬童さん あんた非道いひとだ 

   私はこの集治監に20年出入りしていた

   彼がここにいることをずっと黙っていたなんて……」

ゴールデンカムイ第86話『昔の話をしよう』より

ゴールデンカムイでは、この樺戸集治監に長い事土方歳三が囚人としていた他、永倉が剣術を教えに通っていた。この頃小樽に住んでいた永倉が教えに通うにはあまりに遠い場所ではある。樺戸集治監のすぐ近くには廃駅になっている石狩月形駅があるが、明治の頃はここには鉄道すら通っていなかったのではなかろうか(札沼線は1931年開業)。監獄ありきで出来た場所で、明治時代にはまだまだ何もない場所だったはずである。駅逓所や監獄側が用意したなにかしらの足で通っていたのであろうか。

永倉「今すぐに面会させんと頭カチ割るぞ」の直後にここが描かれている。
雪が少し舞う年の瀬の一コマ

今回は撮影OKの外観のみのご紹介。でもこの外観にこそ信じられないような光景があった。それがちょうど作中にも出てくるこの場所

犬童「その死に損ないを連れて行け 門の外に捨ててこいッ」

永倉「離せッ 役人ども」

ゴールデンカムイ第86話『昔の話をしよう』より

ここ、石段がものすごく深く削れているのである

きれいすぎるカーブを描いて滑らかに削れている

ゴールデンカムイ第85話の最後の方にも、看守と永倉の間にこのすり減った石段のカーブが描かれている。

明治からの石造りの建物は函館や小樽、札幌にも多く残っている。それ以外にも今でも使えるような農業用倉庫が石造りだったりと、とかく石というのは長持ちするという印象であるが、この本庁舎の石段はえぐれているかのように歩くところが削られて凹んでいる。

『囚人たちが足に鎖や鉄球をつけたまま行き来するので鉄で削られた』という話がまことしやかに現在も通っているらしいが、そうではありませんと館が用意した説明板にも断り書きがあった。

本庁舎というのはいわばお偉いさん方のみ用がある場所で、職員は行き来しても囚人たちには縁遠い場所である。なので鉄球や鎖で削られることはまずない。でも実際このえぐれた石段を見ると、いやいや…やはり足枷の鉄球で削れたのではと思うくらい、深くなめらかにすり減っている。当時集治監というのは相当忙しかったのであろうか。

札幌硬石でなく札幌”軟石”を使って石段を作ってしまった為このようなえぐれた石段となったのであろうが、硬石でも札幌軟石でも”石”には変わりないのによくここまで削れるものだと私のような素人はびっくりしてしまう。やはり適材適所っていうのはあって、札幌軟石は壁にはよくても足元には向かない石なのだなぁ……。

本庁舎の裏側

本庁舎の裏側も歩いてみてほしい。本庁舎の真裏にあたるこちらの建物

一見新しく歴史的なものとは縁遠そうな建物ですが

ここに一つの鐘がある。

明治~大正期に使用されていた実物の鐘で、囚人の時計代わりとなったもの。しかも鳴らして良いとされている。使用時期的にもゴールデンカムイと一致し、長きにわたり(作中の)土方歳三が長い間この鐘の音を聞いて暮らしていたということになる。鳴らしてみると、結構きれいに澄んだ音がした。

周辺には囚人の力で出来上がったものやその遺構が多数ある。観光客は少し少な目ではあるがもし訪れたら近くにある円山公園頂上展望台など上ってみても楽しいかもしれない。

ゴールデンカムイの記事一覧はこちらから