三笠の魅力を追って#1唐松駅


北海道さんぽをしていて思うのですが、三笠市というのは計り知れない魅力があります。それを少しでも書き留めておくシリーズ、第一回目の今回は美しき廃駅、唐松駅のご紹介です。

旧唐松駅。廃駅後も駅舎が保存されている。

駅舎内に貼られた昔の写真がたくさんで、この駅を利用したことがない私が見ても涙腺を何度もゆるませてしまうような、味わい深い駅でした。

動画派の方はこちらもご覧ください。ブログでのご紹介はこの下に続きます

唐松駅とは

唐松駅は「とうまつえき」と読みます。唐松駅のあるここ北海道三笠市は、昭和40年代くらいまでは炭鉱でとても栄えていました。今とはスケールが違う栄え方で、人口も考えられないほど多く、飲食店もたくさんありました。この駅も乗降客数がかなりあったんだなという名残が各所に残っています。

駅の南エリア。ぎっしりと”炭住”が並ぶ(駅舎内に貼られた写真)

炭鉱と共に栄えた唐松駅

三笠市内にはいくつもいくつも炭鉱跡があります。そして炭鉱の周りには「炭住」と呼ばれる炭鉱住宅(団地ですね)がぎっしり並び、人が増えればそこには銭湯ができ、飲食店ができ、生活用品店が…さらには酒屋にペットショップに楽器屋まで、またたく間に炭鉱周辺は大都会になりました。

当時の三笠の栄え様は目を見張るものがあり、今では山とか森としか表現しようがない土地に当時は「東洋最大」と称されるマンモス小学校があったり、しかも児童数が多すぎたためか小学校が2校並んでいたり(!)、狭い地域に複数映画館があったり…更には今ではほとんど人とすれ違うことすらない場所にデパートがあったりと、全国から集まった炭鉱の人々でそれはそれは賑わっていました。炭鉱というのは当時それほどまでに一大産業であり、街に繁栄をもたらすのみならず国としても重要な存在でした。

その炭鉱でとれた石炭を運ぶための線路の一つが、この唐松駅のある幌内線(ほろないせん)。最初は石炭を搬出するための貨物駅でしたが、翌年に人々も利用できる一般駅になります。昭和5年の頃でした。ちなみにこの幌内線は北海道で一番古い鉄道といっても過言ではありません(厳密には手宮線ですが手宮線は幌内線の一部です)。日本全国で見てもかなり早くからあった鉄道で、東京大阪に続き3番目に開業したと言われています。

貨物列車が石炭を運ぶ様子。当時の活気が伝わる。奥は新幌内炭鉱の施設だろうか
こちらも駅舎内に貼られた写真。現役時代の唐松駅が今と変わらぬ姿で佇んでいるのが見える(左奥)。
どか雪でも降ったのだろうか、人の手で除雪作業を行っている

炭鉱とそこにあった暮らし

駅舎に入ると広い待合所に有志の方々によって貼られたらしい唐松地区の写真の数々。それが何より当時の繁栄を物語っており、セピア色の写真の中では当時苦楽を共にした人々の笑顔が輝いています。とくに子どもたちの弾けるような笑顔の写真は当時の活気あふれる様子と輝かしい未来を連想させとてもよい一枚の作品。もっともっと有名になってもいいのにと思える写真が展示ケースもなく廃駅の待合所に惜しげなく飾られています。

生き生きとした子どもたちを捉えた一枚 静かになった唐松駅に今も飾られている
炭住の中から顔を出し通り過ぎるご近所さんとお話。
背中の赤ちゃんは季節柄袢纏のようなものにくるまれている。
よくぞ残してくださった、日常の写真。

駅の中にずらりと貼られた写真は、炭鉱がどれだけすごかったかということよりもそこにあった日常を切り取ったものが多くて、今ほど写真が気軽に撮れなかった時代、よくぞ残してくれたなぁという日常を垣間見ることが出来る。

廃鉱とともに急速に寂れゆく唐松駅

このまま発展を続けていくかと思われた三笠ですが、昭和40年代後半となると会い次いで周囲の炭鉱が閉山。その後は当然住民も激減します。様々な思いを胸にここ唐松駅周辺に集まった全国各地の労働者たちは、さらに様々な思いを胸にここを去ったのです。この唐松駅も無人駅となります。その後廃駅までずっと無人駅でしたが、駅舎に入ると有人駅だったころの名残でいっぱいです。

もともと有人駅だったので(無人用に作り替えた駅ではないので)残っている名残は当時そのままの雰囲気と言って良いと思います。窓口などは木枠までも味わい深く美しい駅で、当時の繁栄を物語っていました

木枠が優美なデザインの出札窓口、2つ並んでいる。
当時の繁栄していた様子がしのばれる。
その右の格子の窓口は何に使用していたものであろうか。荷物の受け取り?

荒れ果てた唐松駅

唐松駅が廃駅となったのは1987年。その後は廃墟となり管理者もいないため当然荒れ果てます。草に埋もれた駅は、地元有志の方々が草刈りからはじめて全てきれいにし、補修し、看板を付け替え…当時を知る人々の手によって現役当時の姿に戻りました。今訪れてもたいへんきれいな駅です。おそらく現在も定期的に清掃を行い大事に守られている廃駅。人々の「駅への想い」を感じます

廃線後の唐松駅の様子(平成5年時点)。荒れてはいるが周囲の民家は今より多く駅前の名残がある

現在の唐松駅の様子

唐松駅全景

当時の姿をとどめている駅舎。記録では1929年当時のままともあるし2度増築した記録もある。増築は切妻屋根の横の部分なのだろうか。酪農をイメージさせる切妻屋根の駅舎は美しい。

ところどころ削れているホーム跡。歴史を感じる

ホーム跡。比較的状態良く残っている。

駅のホーム前。単式ホーム1面1線の駅だったがその奥に4本の留置線があったので広い。

駅の向こう側も昔の写真ではびっしり建物だったが今は民家が点在するのみ。その民家も空き家なことが多く、周囲は更地と言うより森に還っているという印象。

古そうだがどっしりした造りのいかにも駅のベンチ。詳細は不明だがこの駅にぴったり。
駅舎内も待合所は天井が高く広い。そしてぐるりと取り囲むように長い備え付けのベンチがある。
駅を利用する人が多かったことをうかがい知ることが出来る
当時駅に貼られていたであろう広告がのこされ、額に入れて掲示されている。
中にはちょっと住所が今と違うけどこの病院今もある…!などという驚きも味わえる。
石炭ストーブ。実際の石炭も見えるしデレッキなどの道具もそろっている

唐松駅の住所・見どころ・周辺のおすすめ

唐松駅は廃駅なこともあり、辺りは決して飲食店やコンビニが多い地域ではありません。むしろ自販機さえ容易には見つかりません。見に行かれる方は周辺の様子をある程度押さえてから行かれるとよいと思います。現地での飲食が不便だからというだけではなく、唐松駅の周辺にはこの駅が好きならここも好きだろうなという箇所がかなり点在しているというのもその理由の一つ。せっかくなので一日で行ける所はできるだけ回って見ませんか。以下に唐松駅周辺のおすすめを列挙しておきますので参考にしてください。

 <唐松駅の住所>

〒068-2135 北海道三笠市唐松町1丁目

※北海道道917号線沿いにあります。駐車場が整備されたような場所ではありませんが、通常あまりひと気はなく、乗用車1~2台であれば駅前の砂利の敷地に停められます。

 <見どころ

駅舎の形…牧歌的なデザインの切妻屋根の駅舎

駅舎内の写真…なんといっても駅舎内にびっしりと貼られた写真は宝です、是非ご覧ください。

有人駅時代の名残の窓口…二つ並んだ窓口も当時の活気を偲べます。乗降者数も相当あったのでしょうね

改札口…こちらも有人駅時代の名残。駅員が入って切符を切るところはかなり狭い。大柄な人は中に入れないかも。

石炭ストーブ…石炭の街らしく駅舎内には石炭ストーブが展示されている。周囲のストーブ用の道具も含めて当時を知る人には懐かしく若い人には歴史を学べる一コマになっている。是非みておきたい。

その他廃駅前からあったと思われるの周辺の店や病院のポスターなどが額に入れられ保管・展示されているが、中には現存する病院もあったりして感慨深い。

 <周辺のおすすめ>

クロフォード公園…この唐松駅の隣の駅であった三笠駅跡地。これが無料で??と思われるような内容の公園。おそらく鉄道がお好きな方ならたまらない内容なので是非。

高島屋食堂…周辺は飲食店が非常に少ない(民家も少ない)が、ここはそんな中でも常に一定の賑わいを見せる人気店。何を頼んでも運ばれてきたらその量にびっくりするほど、おなか一杯になれる場所です。名物のジャンボザンギ以外もちゃんと美味しいですよ。お店の方も気さくで良い雰囲気です。

三笠鉄道記念館…こんなに人口も飲食店も少ない地域なのに、鉄道関係の見どころとなったら時間が足りなくて困るほど多い三笠市。炭鉱という一大産業と隣り合わせにあった鉄道の施設や跡地がそこかしこにたくさんあります。鉄道記念館は全国に数あれど、ここまで産業との関りが伝わってくるダイナミックな展示は全国レベルでそうありません。

幌内炭鉱景観公園…三笠鉄道記念館のほんの少し先にあるので是非セットで訪れたい(見どころ多すぎて時間が足りないかも!)。景観公園という名前の響きから優雅な景勝地を想像してしまうが実際は炭鉱跡地です。基本的に廃墟なので地味と言えば地味ですが、合わせたら数十にもなる炭鉱の跡を見ることが出来ます。歴史好き廃墟好き炭鉱好き…一つでも当てはまれば是非見ておきたい。山の中なので熊だけは気を付けてください。無料です

奔別の立坑櫓…当時東洋一と謳われた立坑櫓。残っているうちに見ておきたい。通常中にまでは入れませんが施設の解説板のあるところから見学するだけで十分見応えアリ。無料です

三笠ジオパーク(野外博物館)…三笠市では森林鉄道跡地を三笠ジオパークとして散策路に転用。この線路跡地の散策路がすごくて、ここを歩くだけで一億年前の地層やら幾春別炭鉱跡やら化石やら…他にも岩に石炭が露出している様子が見られたり珍しい北海道固有種の草花が見られたり。各所に解説板が設置されているので当時の様子を伝える写真などと共に現在の様子を見ることが出来ます。無料です。

三笠市立博物館…外観は恐竜激推しの博物館。エゾミカサリュウが発見された経緯からでしょうね。中に入るとアンモナイト激推しの博物館。こんなにアンモナイト展示している博物館他にある?とあなたも思うはず。

三笠の魅力を追って#1 唐松駅