”圧倒的な陰湿さ”でボスの座を勝ち取った熊も-のぼりべつクマ牧場の歴代ボスに学ぶ、争いと平和の難しさ


のぼりべつクマ牧場、やっぱり一番はクマに餌をあげるのが楽しいんですが…

是非入っておきたいのが「ヒグマ博物館」。

博物館の堅苦しい雰囲気は特になく、おそらく日本一の所有数なのではと思われる膨大なヒグマの剥製を眺めるだけでも迫力がある。

アイヌの暮らしや貴重な品を展示しているコーナーもあり、名作「ゴールデンカムイ」(野田サトル作)でもなじみのある「イヨマンテ」の儀式も画像や展示品で見ることが出来る。

パネルだと思って通り過ぎるなかれ
「歴代ボス」紹介コーナー

そんな豪華なヒグマ博物館、歴代ボスの紹介コーナーは壁に沿ったパネル展示なのでただの廊下かのようにススッと通り過ぎてしまいかねないが、これがなかなか見応えがある。ボス就任順にご紹介します

・初代ボス「タロウ」

初代ボス タロウ(オス)

初代ボス タロウ(オス)

昭和35年生まれ、ボスの期間昭和39年~40年、体重(推定)250㎏、昭和40年死亡。

気性が荒く、一匹オオカミとして余りにも争いが多かったために長続きしなかった。

~ ヒグマ博物館内展示パネルより ~

250㎏というのはオスのヒグマにしてはそんなに大きいということもないと思われますが、輝かしくも初代ボスに君臨したタロウ。タロウという名前もまた初代の頂点にふさわしい気がする。

ヒグマでもあり、(一匹)オオカミでもあったタロウ。展示の説明文を見る限りやはり恐怖政治は長続きしないということなのでしょうか。争いが多くボスとしては長くなかったそうです。ちなみに一匹オオカミって群れを追放されたような存在だったりするのでボスとは真逆な存在。元々一匹オオカミ気質のあるタロウには、ボスというものが本来肌に合わなかったのかもしれません。

・二代目ボス「イシマツ(兄)」

2代目ボス イシマツ(兄)

2代目ボス イシマツ(兄)

昭和36年生まれ、ボスの期間 昭和40年~41年、昭和41年死亡。

弟と共に、ボスとなり、絶大な強さを誇った。

~ ヒグマ博物館内展示パネルより ~

クマが二頭でパワーも二倍。兄弟で力を合わせることで絶大な強さを誇ったようです。が、ボス在任期間はそれほど長くありません。「長く続かなかった」と言われている初代とさして変わらなそうなボス在任期間です。

・三代目ボス「イシマツ(弟)」

3代目ボス イシマツ(弟)

3代目ボス イシマツ(弟)(オス)

昭和36年生まれ、ボスの期間昭和41年~42年、昭和42年死亡。

兄弟で力を合わせるという、ヒトに劣らぬ賢明さをみせた。

~ ヒグマ博物館内展示パネルより ~

みんな思うことは同じだとおもうのですが

兄弟で名前が同じ?→あ、そうかイシマツは苗字だから…→クマに苗字つける?

…みんな思いますよね

イシマツ弟は兄と連立政権を組み、兄に先立たれたあともう一年間ボスの立ち位置だったため3代目とされているのか。2代目が二人いたので年長の兄を尊重して弟は3代目とされたのか。たぶん前者。

しかしクマに、「兄弟だから協力する」という概念はあるのでしょうか。

特に懐疑的な視点を持とうとしてるわけでもないのですが、本人たちに兄弟であるという自覚ってあったのでしょうかね。そのあたりも少し興味があります。

「ゴールデンカムイ」に、赤毛の熊が3頭で協力して牧場を荒らしまわる話が出てきますので、兄弟という認識がクマにもあるのかもしれません。

それとも兄弟だから協力したのではなくて遺伝の力もありたまたま思考が同じで気が合ったんですかね。まあ、兄弟で思考が合わなくて不仲なんて話もよく聞きますが。

体力勝負の多いボス仕事。死ぬまでボスとしての威厳を保つのは難しいと思われるのですが、こうしてみるとボスのまま死亡する例が多いようですね。

・四代目ボス「コボス」

4代目ボス コボス(オス)

昭和38年生まれ、ボスの期間昭和42年~44年、昭和44年死亡。

小柄ながら、陰険さによって政権をものにした。

~ ヒグマ博物館内展示パネルより ~

小柄な熊がこの世界で勝ち抜くには陰険にならざるを得なかった。そう思いたい。小さいのにボスだからコボス?いやいやきっと名前は赤ちゃんのときのものだよね。写真をみると顔が非常に細く、陰険と言われるとそれっぽい顔つきに見えてくる不思議。

でもこのキツネのように細い顔が本来の顔の形といっても良いかもしれません。クマの頭蓋骨は実際非常に細く、熊の顔って丸いですがあれは全部毛なんですよね。だからライオンのたてがみと同じで大事な首回りにかみつかれてもダメージを負いにくく強いのです。アイヌも熊を狩るときに頭部は狙わない(頭蓋骨が非常に硬いからが主な理由ですが、実際毛ばかりで急所に当たりにくいというのもあるでしょう)そうです。

でも、腕のいいハンターは眉間の真ん中を一発で仕留めることがあります。

たまに熊の剥製に眉間に弾痕らしき穴をもつものを見かけることがあります

・五代目ボス「ゴンタ」

5代目ボス ゴンタ

5代目ボス ゴンタ(オス)

昭和39年生まれ、ボスの期間 昭和44年~45年、昭和45年死亡。

気がやさしかったせいか、1年で交代となった。

~ ヒグマ博物館内展示パネルより ~

たしかに温厚そうな顔。優しかったという説明付きで見る顔だから優しく見えるのでしょうか。熊の耳はぬいぐるみそのままのまんまるふわふわでかわいいですね。ポンポンをつけているみたいです。

・六代目ボス「ゴンゾー」

6代目ボス ゴンゾー

6代目ボス ゴンゾー(オス)

昭和39年生まれ、ボスの期間 昭和45年~51年、体重345㎏、体長200㎝

気はやさしくて力もち、さらに頭が良いという牧場のボスとしては最高の人格と実力を持ち、6年もの長期に渡ってボスの座を守った。

~ ヒグマ博物館内展示パネルより ~

最高のボスですね。そしてやはり周囲に好かれるような性格の方がボスとしても長持ちするのですね。学びが多いし身につまされます…

ゴンゾーはかなり大きいですね。体格の良さもボスの器としてふさわしい。やはり強さは体格の良さに比例する部分が大きいので、周囲がみんな「あいつがボスなら問題ない」と思っているに加えて「あいつにはかなわない」と悟ればそれだけで不要な戦いは減ります。

・七代目ボス 「ノロ」

7代目ボス ノロ

7代目ボス ノロ(オス)

昭和39年生まれ、ボスの期間昭和52年のみ、昭和53年死亡、体重360㎏、体長223㎝

神経質なところがあり、1年してヤセ細り、病気になってしまった。

~ ヒグマ博物館内展示パネルより ~

さあ、早くも前言を一部撤回しなければなりません。7代目ボスのノロは6代目ボスのゴンゾーよりさらに体格が良いのですが、神経質なところがあり病気になってしまったとあります。やはりボスはでかければそれだけで務まるようなものではないのですね。頂点に立つのもたいへんだけど立ち続けるのはもっとたいへんなのでしょう。写真がまたたいへん哀愁を誘う表情のもので切ないです

・八代目ボス ギンタ(オス)

8代目ボス ギンタ

8代目ボス ギンタ(オス)

昭和43年生まれ、ボスの期間昭和53年のみ、昭和55年死亡、体重400㎏、体長220㎝。

女王と言われたギンコの息子で、金毛の美しいクマであった。

~ ヒグマ博物館内展示パネルより ~

ギンタでかい。400㎏。体長も大きいですね。

ギンタは金毛だったとあります。顔周りが色が白くてそんな感じに見えます

金毛というのは希少らしくて、ヒグマの毛皮も金毛ということで高く取引されたりしていますが、ヒグマの剥製をみていると、金毛というよりは剥製として展示されている中で紫外線で色が抜けて金色っぽい色調になっている古い剥製をよくみかけます。

実際ヒグマ博物館を訪れると分かるのですがまさにこのボス熊たちのパネルの終わりにある立ち上がった姿の剥製なんかは見た感じずいぶん古く、皮をはいだ跡がゴールデンカムイでアシリパさんが言っていた切り方そのものなのがまる分かりなくらい(おそらく経年や客の接触により毛が抜け落ちたか)のものがあるのですが、その熊などは全身金色とも思える色をしています。

金毛のヒグマにみえる剥製。シロクマにすら見えてくるくらいの金毛。
歴代ボスパネルの終点付近にある。
多分経年で色素が抜けたんだと思う。
縫い目もかなり見えるのでゴールデンカムイのあの刺青人皮の通りだなと感心するなど…

これはもともと金毛の熊だったのか紫外線による脱色なのか…。

また剥製自体は新しくても、長生きした熊の剥製なんかはやはり全体が金色です。人間と同じで加齢で毛の色素も薄くなるんだなと思ったりしております。クマ牧場の熊たちもよくみると真っ茶、真っ黒という熊は相当若い熊を除きあまりおりませんで、どことなく白っぽい部分があるクマも多いです。パンダっぽい顔つきの熊も結構います。それが若い頃からの地毛なのか加齢なのか…素人の私には判断できかねております。

そんな訳でクマ牧場の飼育員さんくらい玄人にならなければ「金毛の熊」とは判断が付きにくいのですが、そのクマ牧場が「金毛の美しいクマ」というのですから本当に美しい熊だったんだろうと思いを馳せます。

こちらもヒグマ博物館のもの。全体的に明るめの色で、”金毛”にも見える

その他、ヒグマには赤毛や銀毛の個体もいるそうで。銀毛はアルビノという訳でもなく個性というか色素が薄いんでしょうね。遠目には白っぽい灰色に見えるので美しいと言われます。赤毛の熊は性格が悪いと言われている、とゴールデンカムイのアシリパさんが言っていましたね。気性も毛の色も遺伝性とは切り離せないでしょうから赤毛の熊は性格が悪いというのもあり得ることかもしれません。

ヒグマ自体が毛色のバラエティーに富んだ動物らしいです。生息範囲の白さによるものか。シロクマとのハイブリッド種でほぼ白い熊もいるらしいですがそれはまた別のお話。

ヒグマ博物館より。後ろの熊はかなり色が抜けているように見える。
銀毛といわれればそう見えるがやはり経年の脱色によるものだろうか。
こちらは子熊の剥製。明るい灰色で”銀毛”に見える
こんなかわいい子熊でも、大きくなれば日本で一番強い陸上動物となる

長くなってしまいましたので続きは次回。どうかまたご覧ください

ここまでありがとうございました

のぼりべつクマ牧場公式サイト

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