
辺見「あそこに匿ってもらいましょう 親方が住む豪邸で隠れるところがいっぱいあります」
ゴールデンカムイ第40話 『ニシン御殿』より
辺見が指をさす先に見えるのがこの丘の上の鰊御殿。現在は「小樽市鰊御殿」と呼ばれている。辺見が「隠れるところがいっぱいある」と言うのは単に大きいお屋敷だからなのか、この鰊御殿に「隠し部屋」があることを把握していたのだろうか。今回はそんなことを考えながらこの鰊御殿を巡っていきます。
場所は小樽市祝津(しゅくつ)。しゅくつとはアイヌ語起源でギョウジャニンニクのある場所(シクヅシ)を意味するそうで、小樽出身のアシリパさんの大好物がある場所という意味になる。鰊漁で栄華を極めたこの地に「祝福された津」の字をあてるのもぴったりだ。
2024年現在、過去の大雨の影響で鰊御殿は見学を中止している。この丘の斜面が崩壊したとのこと。現在修復工事中で、安全確保のため鰊御殿は休業。鰊御殿自体が崩壊したのではなさそうでそこだけは本当によかった。地盤が崩れてしまっては鰊御殿もこの眺望も守れないので辛抱強く修復を陰ながら応援しつつ、今回は見学OKだったころの写真で振り返ることとする。

明治末期 ニシン場の漁獲高は春のたった三か月間で現在の価格にして25億円以上ともいわれる 親方は最高の勢を尽くせる大金持ちという意味で「鰊大尽」と呼ばれた
ゴールデンカムイ第40話 ニシン御殿より
上の画像は小樽市鰊御殿を丘を登ってから撮ったものだが、作中次の一コマは別の鰊御殿がモデルとなっている。こちらも小樽市内の鰊御殿(しかも別邸)

こちらの御殿も現在の30億を投じて建てられた豪邸で、現在内部は撮影禁止(以前は撮影OKだったようだが某観光客のマナーの問題など抱えていたようである)。こちらの鰊御殿に関してはまた改めて。
今回は辺見と杉元が入っていった赤い屋根の鰊御殿の方を巡っていく。あの赤い屋根の鰊御殿、元々小樽にあったものではなく、積丹半島の泊(とまり)にあった。泊も全盛期50を超える鰊御殿があったようで、明治期のニシン全盛期は、北海道中がゴールドラッシュであり鰊もまたある種のゴールデンカムイであったことが良く分かる。ただニシン漁をビジネスとしてやっていたのは圧倒的に開拓民として移住してきた人々でアイヌの人々ではないが。
この鰊御殿は昭和33年にこの地に移築されている。当時の北炭が買い取ってこの地に移築した。昭和30年代といえばニシン漁よりも炭鉱のトップにこそお金があった時代で、経済的トップからトップへ持ち主が変更している様が”歴史”という感じがする。

現在ふすまをすべて取り払っているがかなりの部屋数だったことが伺える
その後小樽市の所有となり現在にいたる。その堂々たる大きさそして何よりこの移築先の立地がすばらしく、鰊御殿からの眺めも含めると数ある鰊御殿の中でもトップクラスに見ごたえがある。

辺見(ふたりきりになれる場所へ……)
辺見「上へ行きましょう」
ゴールデンカムイ第40話『ニシン御殿』より
一階にもかなりの部屋数があり、奥の方や左側にはうすぐらく狭い部屋やヤン衆の寝床が網目のように並んでいる場所があり、隠れるには充分なのだが、辺見は真っ先に二階に隠れようとする。単に少しでも遠い場所に隠れようとしたのか、この御殿の2階に実は隠し部屋があることを知っていたのか。
1階に隠れた方がその後逃げやすいのにとも思うのだが……。二階で「ふたりきりになれる場所」はどこを指しているのだろうか。

辺見「あ!」
第七師団「!?」
ゴールデンカムイ第40話『ニシン御殿』より

辺見「いますぐお茶をお出ししますので
どうぞそちらでおくつろぎくださいませ」
第七師団「どけ」「いま降りていったのは杉元だな?」
ゴールデンカムイ第40話『ニシン御殿』より
階段を上りきらぬうちに第七師団に遭遇してしまい、辺見がどこを目指していたか明確なものはない。ただ作中でも2階はふすまを取り払った広い一部屋の状態で描かれており、隠れる…にふさわしい場所となると2階の部屋の押し入れの中か、その押し入れの奥にある隠し部屋しかない。
当記事冒頭の台詞も「隠れる場所がいっぱいあります」と言い切っていて、「あそこならきっと」のような推定の台詞は見当たらない。コマやスピード感の都合もあるが、辺見はこの屋敷に疎そうなそぶりが見当たらない。
辺見の性格や暮らしぶりをみるに空き巣目的であちこちの家に入るようなことはなさそうだが、一方で倫理感に厚い方でも決してない。杉元には「勝手に入っていいの?」と躊躇が見られる一方で辺見はなんのためらいもなく、それ以前にも勝手なふるまいを見せているので自他の境なくこの屋敷を以前にもあれやこれやの目的でこっそり歩き回っていたとしてもなんら不思議がない。屋敷の細かいところまで知っておくほうが辺見にとって好都合なことが多い。
ところでこの2階の階段周りの手すり、下部に装飾が施されている。古い家になると主要な部屋はすべて一階にあり、二階はなるべく簡素に(ほぼ物置とか)なっているものが多いが、こういったところに鰊御殿の凄さが見える。贅を尽くしたものはやはり時が経っても美しい。


“ダンッ”
(辺見が二人の第七師団兵士を玉切り包丁で後ろから切る)
このあと辺見と杉元は外に逃げ出すが、その時映る大きな崖もこの場所から見えるもので、ちょうどこの北海道日本海側を象徴するような絶壁が自然の厳しさも見せつつ美しい。

ロウソクの炎は
燃え尽きる寸前に
強く揺らいで
煌めくのです杉元さんの煌めきを見ていると
弟を思い出します

僕は
弟のように
なりたかったゴールデンカムイ第40話『ニシン御殿』より
辺見は一部ファンの間で変態として親しまれているが、一方で大きなトラウマと贖罪の念のようなものが抱えきれなくなっていたのだろうかと、この3行がついた一コマを見ると思ったりもする。精神自衛のために無意識に一線を越え続けていたのだろうか。
ところで二つ上の崖の画像、崖の下に釣り人が二名見える。のぞきこむのも日和ってしまうくらい大きな崖なのにどうやってあそこまで行ったのか、地元の人に敬意や憧れを抱いてしまう。いい釣り場なのかもしれない。

※鰊御殿が好きなこともあり、つい長くなってしまいました。この鰊御殿の真の魅力はまだまだあるので次回もこちらを巡っていきます。今回の最後に鰊御殿側からの眺めをご覧ください。ここまでありがとうございました。

崖を降りると海獣公園(水族館のトドやアザラシが暮らすコーナー)。
海から来たトドが入り込んである日突然トドが増えていたりする伝説を持つ。



