
雪国に「ボッコ靴」あり
「ボッコ靴」というのをご存じだろうか。
ある日散歩途中にふらりと立ち寄った北海道の開拓期の展示をする小さな資料館で、「ボッコ靴」なるものに遭遇した。
初めて聞く言葉だった。
資料館では「山ぐつ」として紹介されていた。この生ゴムだけでできた山靴を、人々はボッコ靴と呼んでいたのだそうだ。
ボッコ靴の歴史
ボッコ靴とは天然ゴム100%で作られた雪国伝統の山靴で、暖かさと防水性をもつ非常に重宝された靴だったそう。水がしみこまない靴というのは当時画期的だったはずだ。作業用の靴として、北海道や青森などの雪国では明治時代から使われていたようである。上の写真のものも明治~大正期のものだそう。開拓期の雪上作業を支えた道具の一つといえる。
なぜボッコ靴?
私の生まれた地方では「ボッコ」というのは古い、ボロボロなものという意味がある。ボッコ靴というと「ぼろぼろになった靴」という意味になる。最初は自然にそう理解してしまった。
開拓期にはボロボロになるまで靴を履いたんだよとか、靴がボロボロになるほどたいへんな作業だったんだよという意味合いを込めているのかと思ったが、展示されている靴はたいへんきれいな状態で、新しくさえ見えた。
展示ケースすらない状態でただそこにぽんと置かれているのに、ゴム特有の劣化を感じない。触ってはないけどしっかりしたゴム靴だ。いいものに違いない。
そういえばここは北海道。ボッコというと「棒」の意味があるはずだ。木の棒以外にもコンクリート製杭なんかでも「あそこにボッコがささってる」なんていう表現をする。でもそれも「ボッコ靴」とは関係なさそうだ。なぜボッコ靴?
ボッコ、ボッコと鳴るボッコ靴
調べると名前の由来は諸説あるようだが、歩くとボッコボッコ鳴るからという説が自分には一番しっくり来た。今まで下駄やわらじ、わらじを深く編んでつま先を温かくしたような「つまご」を履いていた人々に、ゴム靴のボコ、ボコ、という音はさぞかし印象的だったはずである。ボッコ靴と呼びたくなるのはとても分かる。今でもぐにゃぐにゃな長靴を履くと空気の逃げ道が履き口の一箇所しかないのでそんな音がすることがある。このボッコ靴、冷たいだろうけど雪や水が入らなくてさぞ重宝しただろうと眺めていたが、意外にも”暖かくて”重宝がられたのだという。

ボッコ靴は防水性、耐寒性、耐久性が高かった
私の学生時、学校指定の上履きはゴム底でとても冷えた。毎年足の指はしもやけになり、冬の部活の朝練が頻繁だった時期はしもやけがひどくなり、赤くてかゆいどころか全ての足の指が真っ黒になった。真っ黒になった足指は真夏になっても治らなかった。ほとんど凍傷である。そのためゴム靴は冷たいというイメージがある。
この「ボッコ靴」は全てがゴムなのだからさぞ寒いだろうと思っていたが逆で「生ゴムの保温性で暖かい」らしい。安い上履きはおそらく合成ゴムだがボッコ靴は100%天然ゴム。保温性は合成ゴムと天然ゴムの差だろうか。調べると確かに専門家が「天然ゴムは防寒性に優れる」と書いているのも見受けられる。しかも天然ゴムというのは相当耐久性が高く、強度が重要なトラックのタイヤなどは天然ゴムをより多く使用するそう。

ボッコ靴はほとんどが生ゴムで作られた長靴という感じだが、これはひもが通せるようになっていて、調節が可能になっている。履き口もかなりバッファがある。当時としてもかなり良いものだったのではないかと思う。説明には『足にぐるぐると毛套を巻いてから履いた』とあった。さすがに雪の上で長時間作業するにはその方が暖かそうだ。
ところでその毛套(けっとう)って何?もう今は日本ではあまり使われていない言葉なのか、中国語として日本語に変換するとウールカバーにあたる言葉のようだ。おそらく今でいう毛布のようなものや毛皮の余りなど、とにかく保温性のあるものを靴下代わりにぐるぐる巻いてから履いたのであろう。厳冬での作業のようすが目に浮かぶ。今より札幌がずっとずっと寒かった、昔の話。
北海道の開拓期に実際使われた道具に出会い、ちょっと嬉しくなる散歩となった。


